8月15日と南原繁を語る会

 東大の安田講堂で,上記のような講演会が行われました。司会は立花隆氏。著書『天皇と東大』をきっかけに計画したそうです。非常に充実した講演会でした。
 南原繁は東大法学部の政治思想史の教授で,終戦後間もなく東大総長となった人物です。敗戦の翌年1946年2月11日の紀元節の日には「新日本文化の創造」という講演を行い,この年を「昭和維新元年」と宣言しました。また一方で学者議員として貴族院議員を務め,憲法の制定に際して意見し,また教育刷新委員会のメンバーとして教育基本法と学校教育法の制定に関わりました。改憲教育基本法改正が叫ばれている今,見直すべき人物の一人でしょう。
 講演会は,照明が落ちて真っ暗な演台に,スポットライトで照らし出される旧式ラジオ,というドラマティックな演出から始まりました。これは,1945年8月15日,安田講堂では同じようにラジオが置かれ,玉音放送が流されたことに由来します。立花氏によると,このラジオは当時と同じナショナルの昭和8年製だそうです(この取材力はさすが)。続いて,立花氏より,この講演会は「考える会」であり,「考える核に南原繁の言葉を置く」会であり,「会が終わっても考える会」である,という会の趣旨が説明されました。
 プログラムは以下の通りでした(17:30開演,20:40終了予定のところを10分オーバーで終了)。さすが立花隆,そうそうたるメンバーです。

第1部 東京大学の8月15日
 東京大学の8月15日となぜいま南原繁か(立花隆
 南原繁とその時代(NHK制作のビデオクリップ上映)
 昭和20年8月15日に東大安田講堂終戦詔勅を聞く(石坂公成/細谷憲政)
 東大キャンパス 二つの接収計画(日本陸軍と占領軍GHQ)(石井紫郎
 終戦直後混乱期の総長と学生の交情(堤清二


第2部 南原繁の歴史的意義と現代的意義
 政治学南原繁佐々木毅
 南原繁憲法9条(姜尚中
 南原繁靖国問題高橋哲哉
 南原繁と倫理的想像力(大江健三郎
 今問われているもの(鴨下重彦)

 姜尚中氏は,イデアリストであると同時にリアリストであるという,南原繁政治学上のスタンスを示すものとして,a. 改憲論者であったこと(ただし「アジア諸国に配慮すること」「列島から外国の基地・軍隊を撤退させ真の意味で独立する」という留保付き),b. 第9条に世界的なミッションを感じていたこと,c. 自衛権を認めていたこと(もちろん必要最小限の個別的自衛権),d. 国連の意義に注目していたこと,e. 積極的中立論を唱えたこと,の5つを取り上げていました。
 高橋哲哉氏は,当日の小泉首相靖国参拝を批判し,南原繁の宗教と国家の関係に対する考え方や,戦後は「日本精神,民族思想の改革のときである」という言葉から,「南原繁靖国参拝に反対しただろう」と結論付けました。
 大江健三郎氏は,南原繁が将来の日本に対して鋭い洞察力を持っていたことから,「これから生きて行く者に対する想像力」=倫理的想像力の重要性を説いていました。


 今年は,南原繁が1946年の紀元節の演説に言う「新日本紀元」の60周年に当たります。この国は,あれから少しは成長したのでしょうか。


 →8月15日と南原繁を語る会ホームページ

南原繁―近代日本と知識人 (岩波新書)

南原繁―近代日本と知識人 (岩波新書)

(2006.9.5記述)